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2019/04/15 23:38

唐突ですが、日本の歌でもっとも多くのカヴァー・ヴァージョンがあるのは吉田美奈子の「夢で逢えたら」だそうです。


なにかのテレビ番組でそう言っていたのを記憶しているだけであって裏を取ったわけではありませんが、ちょっと思い浮かべるだけで、作者の大瀧詠一自身のもの、シリア・ポール、アン・ルイス、ラッツ・アンド・スター、いきものがかりなどなど、確かにたくさんのカヴァーが存在しています。ここでのカヴァーの定義は、ライヴで演奏しただけとかではなく、ちゃんと録音物になってシングルやアルバムとしてリリースされたものを言います。でも、それだとしても坂本九「上を向いて歩こう」が最多カヴァー曲じゃないのかなあ。

では、ニューウェイヴ・ポストパンクの楽曲で一番カヴァーされているのはどの曲?と考えると、それはジョイ・ディヴィジョンの「ラヴ・ウィル・テア・アス・アパート」ではないでしょうか。これもはっきりとはわかりませんけど。ちなみに洋楽全般だと最多はビートルズの「Yesterday」で、ギネスブックに載っているというのは有名な話。



写真はイアン・カーティスの墓標の「LOVE WILL TEAR US APART」

「Love Will ~」をとりあえず試しにYou Tubeで検索するとけっこうわんさかカヴァー・ヴァージョンが出てきます。それを片っ端から観るのも楽しいのですが、たくさん観るのも大変なので、選りすぐりのものをいくつかピックアップしようと思います。


まずは原曲(もとうた)を。オフィシャルPVです。

Joy Division - Love Will tear Us Apart


メロディの執拗な繰り返し。ベースもシンセも同じ音階を弾いてるだけ。なのに何度聴いても飽きない名曲です。


さて、この曲のカヴァーで最もヒットしたのはイギリスのシンガーであるポール・ヤング(Paul Young)のものであることに疑いの余地はありません。



Paul Young - Love Will Tear Us Apart


これはイギリスのテレビでのライヴ映像ですが、ちゃんとシングルとしてリリースされ、オランダとベルギーでシングル・チャートの9位まで上昇しました。ちなみに本家ジョイ・ディヴィジョンはUKチャートの13位が最高位です。

ポール・ヤングのヴァージョンは、歌がうまい人だけあって曲をドラマチックに歌い上げていますが、好き嫌いはわかれるかも。


最もヒットしたのはポール・ヤングとして、では最初にカヴァーしたのは誰でしょうか。

それはオーストリアのパンク・バンド「Chuzpe」というのが定説です。



Chuzpe - Love Will Tear Us Apart


なんかすごくかっこいい。彼らは77年に結成されたオーストリア初のパンク・バンド。ジョイ・ディヴィジョンの「Love Will ~」は1980年6月に発売されましたが、このヴァージョンも同年にリリースされています。オーストリアではシングル・チャートの8位を記録したそう。ちなみにバンド名の読み方は「フツパ」です。


では日本でもっともなじみのある「Love Will ~」のカヴァーは? そんなのある?

それは恐らくヌーヴェル・ヴァーグ(Nouvelle Vague)のヴァージョンではないかと推測できます。


Nouvelle Vague - Love Will Tear Us Apart


2004年にデビューのフランスのユニットで、ニューウェイヴの曲をボサノヴァ・アレンジで演奏するというのが売り。なんかあざといと思いましたが、ポルトガル語のBossa Novaを英語の意味に直すとNew Waveになるので、こりゃ一本取られたなといった感じです。

彼らのCDは、一時期ヴィレッジヴァンガードでプッシュされ、実際にけっこう売れていたようです。マメシバも実はヴィレヴァンで買いました。日本で売れたからかどうかはわかりませんが、後にユニコーンの「すばらしい日々」もカバーしています。

最近の「Love Will ~」のカヴァーは、ボサノヴァまではいかないものの、スロウでやさしめのバラードっぽいアレンジのものが多いです。そのなかでの極めつけが「ハニールート(Honeyroot)」の「Love Will ~」でしょう。




Honeyroot - Love Will Tear Us Apart


ハニールートはイギリスのシンセポップ・バンドのヘヴン17のグレン・グレゴリーと、ABCにも参加したキース・ラウンズによるユニットです。2005年リリースで全英シングル・チャート70位のマイナーヒットを記録。同じような地方都市出身(マンチェスターとシェフィールド)で同時代に活動していたからというわけでもないでしょうが、なかなか良い出来です。

しかしながら「Love Will ~」は静かなパッションとアグレッシヴさを内在した曲だと思っているので、こうメロウに再現されてしまうと、本来の良さがないがしろにされている感がしないでもありません。

同じことをお嘆きの貴兄に、最もアグレッシヴなカヴァーをどうぞ。

カリフォルニアのメタルコア・バンド「アンブロークン(Unbroken)」のヴァージョンです。




Unbroken - Love Will Tear Us Apart


90年代結成のアメリカ西海岸のストレートエッジ(アンチ・ドラッグ、アンチ・アルコールなど)なハードコア・バンドの98年作。こういう風にカヴァーされたほうがイアン・カーティスは喜びそう。


アメリカ西海岸のバンドのヴァージョンをピックアップしたので、今度はアメリカ東海岸のバンドのものを。

ニューヨーク・アンダーグラウンドの重鎮バンド「スワンズ(Swans)」のヴァージョンです。



The Swans - Love Will Tear Us Apart


これがベスト・カヴァー・ヴァージョンではないかな。88年のリリース時にはけっこう話題になり、UKシングル・チャートの85位に食い込むというマイナーヒットを達成しました。暗く静かな過激さとコクのあるヴォーカルが曲にすばらしくマッチしています。


では、今度は正規リリースでないものやライヴのものもチェックしてみましょう。カヴァーの定義から外れますが。

有名なヴァージョンとしてはU2とキュアーのものがあります。

U2は大ヒット曲の「With or Without You」の演奏の間奏で「Love will~」のフレーズを紛れ込ませています。このパターンの「With or ~」はなんと87年からすでに30年も演奏しています。

U2 - With or Without You / Love Will Tear Us Apart


オーディエンスが最初から最後まで合唱しているのを聴くと思わず泣いてしまいそうだわ。ちなみに「Love Will ~」を単体のセットリストに入れて演奏したのは今までで一度だけとのこと。それは2005年の「ヴァーティゴ・ツアー」で11月のカナダの、ええとどこだっけな……そこまで掘る必要は無いですか。


キュアー(The Cure)のものは2000年にオーストラリアのラジオで披露されたもので、以前はキュアーのオフィシャル・ウェブサイトでダウンロードできたとのことです。

The Cure - Love Will Tear Us Apart



こんなのもありました。デペッシュ・モードのヴォーカルであるデイヴ・ガーン(Dave Gahan)のヴァージョンです。

Dave Gahan - Love Will Tear Us Apart


ものまね入ってるね。ギター、ベース、ドラムをバックに歌うデイヴ・ガーンってなかなか珍しいかも。BPM高めでかっこいいです。

そのほかにもビョークが「Love Will ~」を歌っている動画もあったりしますが、それはビョークが単になにかのイベントでカラオケを歌っているだけのもので、それ以上のものではありませんので却下です。


そろそろ終盤。

2000年以降にリリースされたもののなかで秀逸なのはスクエアプッシャー(Squarepusher)のヴァージョンです。




Squarepusher - Love Will Tear Us Apart


フジロックにも出たりと日本でも有名なスクエアプッシャー、本名トーマス・ジェンキンソン。イギリスのベーシストでサウンド・クリエイターです。最初の頃はテクノやドラムン・ベースのクリエイターとして名が通っていましたが、後にどんどんフュージョンやジャズともクロスオーバーしサウンドが進化していってます。彼の作品は古いのも新しいのもどれを聴いてもすばらしっ。アブストラクトなものが多い彼の作品ですが、これは自作でないこともあるけど、ちゃんとメロディを尊重した作品になっています。2002年のリリース。


それでは最後に、遺族であるニュー・オーダー(New Order)のライヴ・ヴァージョンで〆ましょう。

New Order - Love Will Tear Us Apart


2008年グラスゴーでのライヴ。まだピーター・フックのいた頃の映像で演奏が熱いです。スティーヴン・モリスのドラミングはいつもタイトだ。

ここまでで12曲。そろそろもうおなかいっぱい。メロディが頭の中をぐるぐると回ってる

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