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2023/04/10 23:17
長くがんと闘病していた坂本龍一が3月28日に亡くなりました。享年71歳。早すぎます。
2023年4月3日の彼のインスタグラムに January 17 1952 - March 28 2023 という文字と、朽ちたピアノの写真が表示され、ついにその時が来てしまったことを皆が悟りました。
2023年初めにNHKテレビで彼の特集番組が放送され、ファンにとっては彼の演奏を見ることができたという安堵感と、その衰弱した姿に心配が大きくなるというふたつの気持ちをない交ぜにした内容でしたが、とりあえず新譜のリリースも決まっているということで、体調が少し安定しているのかもという期待は誰もが少なからず持ったと思います。なので、しばらく置いての訃報は本当に残念でなりませんでした。
訃報の後は、ご存知のように、彼のひととなり、音楽作品、社会活動などを振り返るテレビやラジオのプログラムがたくさん作られ流れました。いや、今も流れています。
番組では多くの場合、彼のピアノ演奏による「戦場のメリークリスマス」(Merry Christmas, Mr. Lawrence)が流れますが、確かにこの曲が代表曲であることに疑いの余地はないでしょう。
しかしながら、ファンにとってはピアノの人としての教授(ここからは教授)、または戦メリのヨノイだけが坂本龍一であるわけではありません。それはほんの一部です。
今、聴きたいもの。それは個人的には教授の「声」です。
ヴォコーダーを使っていない教授自身のヴォーカル曲としては古くは「Thatness and Thereness」や「Front Line」、YMOの「perspective」などがありますが、その独特なとつとつとしたヴォーカリゼーションには十分すぎるほど魅力があります。
では教授の最も最近のヴォーカル曲と言えばなにになるかというと、他人の作品ではありますが2021年リリースのArcaの「Sanctuary」でしょう。
Arca
ビョークとのコラボレーションなどで有名なArca(アルカ)ことアレハンドラ・ゲルシ・ロドリゲスと教授との接点としては、2017年リリースの「ASYNC - REMODELS」においてArcaがリミキサーのひとりとして参加したことで、この「Sanctuary」は彼女(今のArcaのジェンダーはSheである)のグラミー賞ノミネート作である2020年のアルバム「Kick i」の続編と言える2021年のシリーズ4枚のうちの「Kick iiiii」に収録されています。サウンドはダーク・アンビエントといったもので、アルバムの収録曲の中でも、最も重たく暗く、そして荘厳な作品と言えます。
さて、それでは「Sanctuary」をどうぞ、と言う前にひとつお断りを。最初にブログ・タイトルでそう言っているわけではありますが、この曲はヴォーカル曲ではなく実は詩の朗読、つまりポエトリー・リーディングの曲なのです。あ、そうなると先ほど挙げるべきだった曲は「Bamboo Houses」や「ぼくのかけら」でした。ともあれ、なるべく大きな音で聴いてください。
Arca - Sanctuary ft. Ryuichi Sakamoto
イントロもなくいきなり発せられる教授の肉声に驚きますが、その声の近さと生々しさに、がんを患ってから唾液が出づらくなり、いつもチューイングガムを嚙んでいるとインタビューで発言していたことを思い出してしまいました。
あまりにインパクトの強い本作ですが、作詞作曲演奏はArcaによるものなので、教授の色を感じるのは本当は声だけです。しかし、バックトラックを聴いていると、教授がどこかの部分で参加しているのではないかと疑ってしまうのは私だけではないでしょう。朗読された詩は、単語と短いフレーズによる難解なものですが、敢えて意味を追う必要もないでしょう。今はその声のみを感じればいいのです。
(了)
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